2018.2.2
※個別具体的な労務・社会保険の相談・申請の依頼は社会保険労務士にお願い致します。ご連絡がありましたら、社会保険労務士をご紹介致します。
給与形態については、大きく考えると時給制と月給制があります。
時給制は実際の労働時間によって給与が決められるため、雇用側としては納得がいく形態です。
ただし、労働者にとっては、農繁期には収入が増える一方で農閑期には大きく減収することから、生活の見通しが立てられません。その点、月給制は年間を通して安定した収入があり、従業員は安心して働くことができ、定着が進んでいくと思われます。
給与の支払いには、最低賃金というものがあります。これは「最低賃金法」に基づいて定められているもので、正社員に限らず、パートやアルバイト、外国人労働者にも適用されます。
固定残業手当は、残業をしてもしなくても毎月一定額の残業代を支給するものです。この固定残業手当が何時間分の残業代にあたるのか、あらかじめ示しておくことでトラブルを回避することができます。
固定残業手当を定めておくのは、農業が天候などに左右されやすい業種だからです。天候悪化でその日に予定していた仕事ができず、代わりに休日に働いてもらったり、突発的に残業をしてもらうときに対処がしやすくなります。
基本給を最低賃金以上で設定し、「所定労働時間+固定残業時間」を過去1年間の最も労働時間が長い月と同様にして設定することで、残業代の未払いや賃金額が最低賃金を下回るという事態にはなりにくくなります。
支払額を変えずに固定残業手当のみを導入する場合、基本給の減額となって、労働者には不利益となるため、従業員それぞれから個別に同意を得る必要があります。年間で支払う給与は減額しないことを丁寧に説明し、従業員から十分な理解を得ることが必要不可欠です。
重要なことですが、固定残業手当の導入は残業代をこれ以上支払わなくても良いという制度ではありません。実際の残業時間に対する手当の額が、固定残業手当の額を超えた場合は、その分を追加で支払う必要があります。そのため導入に際しては、就業規則に、「固定残業手当は固定の時間外手当である」旨、および「計算上不足額が発生する場合は別途支給する」旨を明記する必要があります。
出来高払いは労働時間に関係なく、出来高に応じて賃金を支払うものです。しかしながら、すべての賃金が出来高払いではなく、一定額の賃金は保障されています(平均賃金の6割程度)。ただし、労働者の本人都合による欠勤に対応する部分については、保障給は支払わなくても良いとされています。
農業は天候などに左右されることが多いため、他の産業とは異なり、以下のように労働時間や休日に関して柔軟な取り扱いをしても良いことになっています
農業に従事する労働者は、1週40時間1日8時間を超えて労働させても良い。
雇用主側は、農業においては1週1日の休日を与えなくても良い。(他の産業では、1週1日以上の休日を与えなくてはなりません。)
農業においては休憩の付与の義務はない。(他の産業では、労働時間が6時間を超える場合は45分、8時間を超える場合は1時間の休憩を与えなくてはなりません。)
農業では、一定率の割増賃金を支払う義務はない。(しかしながら、深夜労働に関しては割増賃金を支払わなければなりません。)
しかしながら、農業に関して長時間労働や休日労働が推し進められているわけではありません。
農繁期には労働時間が長く、休日も少ないですが、反対に農閑期には労働時間を短く、休日を多めに設定している例があります。また、他産業並みに所定労働時間を週40時間に設定している事業所が増加しているようです。
他産業から農業に進出した場合、労災保険料率が異なることから、新たに労災保険を成立させなければなりません。ただし、農業の規模が小さく、附随的に行われているとみなされる場合は、新たに成立させなくても良いとされています。
一方、雇用保険では、農業が主たる事業である場合は新たに申請する必要があります。
農業者年金とは、第一号被保険者である農業者が豊かな老後生活を過ごすことができるように国民年金に上乗せした公的な年金制度です。
個人が法人化した場合、農地所有適格法人(旧農業生産法人)は厚生年金の適用事業所となるため、農業者年金に加入することはできません。農事組合法人の場合で、従事分量配当制の場合には、厚生年金の適用とならずに農業者年金に加入することができます。
従事分量配当制・・・農事組合法人の組合員がその事業に従事した程度に応じて、剰余金の配当を受けるもの
農地所有適格法人(旧農業生産法人)は、年金事務所に新規適用届をすることで厚生年金に加入します。また、農業者年金に入っていた人は農業者年金基金に脱退届をすることで、農業者年金から脱退します。
大事なことですが、農業者年金を脱退することで今までの加入期間に対する年金がもらえなくなるということはありません。法人化しても、農業者年金の加入資格を失っただけで、受給資格はあります。新しく厚生年金に移行した後の期間は、「カラ期間」として農業者年金加入期間として合算されます。(カラ期間とは、年金額には反映されないが、受給資格期間として認められる期間。)
農事組合法人ではない集落営農組織の場合、引き続き農業者年金に加入できます。
農地所有適格法人(旧農業生産法人)の社長は法人から役員報酬をもらっているため厚生年金の対象ですが、給料制でない農事組合法人やパート・アルバイトなどの労働時間や勤務日数が正社員よりも短い従業員は、引き続き農業者年金に加入することができます。
外国人技能実習は、外国人が日本の生産現場で働き、学ぶ制度であるため、関係者は日本の入国管理法や労働法関係法を遵守しなけばなりません。(あくまでも働き、学ぶ制度であるということを念頭に置いてください。)
技能実習生は基本的に労働基準法に準拠します。つまり、農業の特殊性から適用除外とされている労働時間・休憩・休日の規定は、技能実習生に関しては適用除外とはならないめ、注意が必要です。