組織変更に伴う財産の引継ぎ

2018.10.3更新

 

法人設立後、今まで事業主であった個人と法人は別人格となります。事業主であった個人の財産を法人に移転させると税務上の問題が生じることになり、慎重に対応する必要があります。

 

 

※個別具体的な税務の相談、税務申告の依頼は税理士にお願い致します。

 

 

<農地について>

個人から法人へ売買の形で引継ぐ場合

個人所有の農地を法人へ出資又は売却すると、その個人は譲渡所得税の申告が必要になります。

 

譲渡所得は以下のように計算します。

 

譲渡所得 = 譲渡収入金額 - (取得費 + 譲渡費用)

 

(譲渡収入金額とは、農地を法人へ売却したときの金額です。取得費とは、以前農地を取得したとき、取得するために費やした金額と購入代金の合計額です。譲渡費用とは、法人へ売却するために費やした費用です。)

 

この譲渡所得に、税率を掛け合わせると譲渡所得税となります。

 

しかしながら、先祖代々引き継がれている農地などのように、取得費がわからない場合は、取得費を譲渡収入金額の5%として計算されます。このとき、一般的に譲渡取得は高額になってしまいます。それを避けるため、農地の取得費がわからないときは、出資または売却ではなく、賃貸借という方法をとった方が良いと思います。

 

譲渡する場合、農地を時価よりも低い額で法人へ売却すると、時価と売却金額との差額分(受贈益)について法人税が課税されます。さらに、農地を売却した個人についても時価で譲渡したとみなして、譲渡所得が計算されます。以上より、譲渡するときの売却金額は時価とした方が良いです。

 

この他に、登録免許税や不動産取得税も関わってきます。(賃貸借の場合には、不要です。)

 

 

個人から法人に農地を譲渡する場合は、法人は農地所有適格法人の要件を満たしていなければなりません。

 

 

相続税・贈与税の納税猶予の特例を受けている農地(特例農地)を農業法人に譲渡した場合、納税猶予が打ち切られ、納税猶予されていた相続税・贈与税を利子税とともに納付しなければなりません。

 

また、特例農地の面積の20%超の部分を譲渡した場合には、譲渡した部分の納税猶予が打ち切られるのではなく、すべての特例農地の納税猶予が打ち切られます。(特例農地を現物出資し、その農地所有適格法人の常時従事者となる場合は、納税猶予が打ち切られません。)

 

 

個人から法人へ賃貸借などする場合

個人所有の農地を法人へ貸し付けた場合、その個人が受け取る賃料は不動産所得となり、法人が支払う地代は損金となります。

 

 

個人から法人に農地を賃貸・使用貸などする場合には、法人は農地所有適格法人の要件を満たしていなければなりませんが、条件付きで賃貸する場合には、要件を満たしていなくても構いません。

 

 

特例農地について使用貸借・賃貸借の権利を設定した場合は、納税猶予が打ち切られ、納税猶予されていた相続税・贈与税を利子税とともに納付しなければなりません。しかし、利用権設定による貸し付けの場合、一定要件を満たす特例農地は納税猶予の打ち切りになりません。

 

なお、贈与税の納税猶予の農地である場合は、納税猶予の特例を継続するための手続期限から貸付期間が20年以上であることが必要です。(農地の受贈者が65歳以上である場合は、10年。)

 

 

<建物・構築物について>

個人から法人へ売買の形で引継ぐ場合

個人所有の建物等を法人へ売却した場合、農地と同様に個人には譲渡所得となり、所有権移転登記が必要なものは登録免許税や不動産取得税がかかります。

 

建物等を取得した法人は中古資産の購入となり、減価償却費として損金に計上できます。

 

 

個人から法人へ賃貸借などする場合

個人が受け取る賃料は農地と同様に不動産所得となり、法人が支払う家賃は、事業年度に対応する部分を損金に計上できます。

 

 

<備品について>

補助事業の対象財産を移転する場合、補助事業の期間内に譲渡すると補助金の返納を求められる場合があります。

事前に十分な確認が必要です。

 

個人から法人へ売買の形で引継ぐ場合

個人にとっては総合課税の譲渡所得になります。

 

引継いだ法人側は中古資産として計算し、減価償却費が損金となります。

 

 

個人から法人へ賃貸借などする場合

備品を引き渡した個人が収受する賃貸料は雑所得となります。この場合、他所得と損益通算や青色申告特別控除の対象とはなりません。

 

また、法人が支払う賃借料は損金となります。

 

 

 

売買・賃貸借の他に、現物出資という形で、設立する法人に譲ることもできます。

 

<棚卸資産について>

個人から法人へ売買の形で引継ぐ場合(この形のみ)

棚卸資産は、在庫として残っている商品などを法人へ売却する必要があります。この場合、個人においては売却金額が事業所得の収入金額となりますが、帳簿価額で売買することで、結果的に所得がゼロになります。よって、所得税が課税されることはありません。

 

また、未収穫農産物は無評価で引き継ぐことが認められています。

 

 

組織変更に伴う財産の引継ぎでの問題点

農地の賃借

農地を賃借している場合に、その農地の所有者が死亡し、相続が発生したとき、相続人は当初の賃貸借契約を引き継ぎ、賃貸人の地位を承継します。一方、賃借人には変更点はなく、契約を継続し、更新期間が到来しても農地法上の更新拒絶事由がない場合は、賃貸借契約が更新されます。

 

民法の特例として、農地の賃借は50年以内まで可能です。一方、農業経営基盤強化促進法での利用権設定には法定更新がありません。このように賃借と言っても、様々な方法があり、違いがあります。賃借人である法人に不利にならない契約を考える必要があります。

 

また、農地所有者である賃貸人に相続が発生したことまで考え、どのような方法をとるのがよいのか検討する必要があります。

 

農地の使用貸借

使用貸借の場合、貸主である所有者が死亡しても使用貸借契約は終了せず、借主はそのまま農地を継続して使用することができます。ただし、個人(法人の役員など)が借主の場合は、個人の死亡によって使用貸借契約は終了してしまうため、借主の地位を法人に移しておく必要があります。

 

また、当事者同士で使用貸借の期間を定めていない場合、使用収益の目的によっては、貸主から返還を請求されることがありえます。そのような事態を避けるため、法人に移行する際には新たな賃貸借契約を結んだ方が良いです。

 

 

賃借権の譲渡・転貸

賃借人である個人が法人に農地を使用させるためには、賃借権を譲渡したり、転貸することになりますが、賃貸人の承諾が契約で不要となっている場合以外は、賃貸人の承諾が必要です。

 

農地の賃借権の譲渡は、農地法第3条第1項の「賃借権の移転」にあたるため、農地法第3条の許可が必要です。

 

一方、農地を転貸する場合にも農地法の許可が必要ですが、厳格な基準があります。(賃借権などに基づいて、農地を耕作している者がその農地を貸し付けたりすることは、原則許可されません。しかし、農地所有適格法人の常時従事者たる構成員がその農地を法人に貸し付ける場合、許可することができます。)

 

 

 

 

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