所有者のわからない農地の活用

2024.4.11

 

農地を貸借する場合、農地が共有であれば共有者全員の同意が必要となります。

しかし、誰が共有者なのか分からなくなってしまうことがあります。

このような場合、農地を借りて規模を拡大しようとする人や、農地の管理が大変なので誰かに貸したいという人にとって、貸し借りができずに困ってしまうことがあります。

 

そして、将来的には、農地が荒廃してしまい、周囲の方々にも迷惑をかけてしまう可能性もあります。

 

このような問題を解決するために、「所有者不明農地制度」があります。

 

ここでは、所有者不明農地制度について、ご案内をしていきます。
 

1. はじめに

相続登記が行われてないと、農地は相続人全員の共有となります。

そして、相続登記が長い間行われていないのに相続が繰り返されていると、この共有者の数は膨大になってしまいます。

当然、共有者の数が多ければ、全員を把握することは大変なことです。

 

農林水産省が行った、令和3年の実態調査によると、相続未登記農地と相続未登記のおそれのある農地は、合計でおよそ102万9,000ha(全農地面積の2割)となっており、結構な数の農地が相続登記が行われていないということがわかります。

 

農地を貸し借りするときには、農地の共有者全員の同意が必要であるため、共有者を探すことが非常に重要ですが、この作業はとても大変で、個人では限界があります。

 

その解決策として、「所有者不明農地制度」があります。

2.所有者不明農地制度とは

所有者不明農地制度とは、登記簿から所有者がすぐに分からない農地、または所有者が分かったとしても所在が不明で連絡が取れない農地について、農業委員会が共有者を探し、共有者の同意を得るなどして、農地バンクが一定期間借り上げ、新たな担い手に貸し付ける制度です。

 

この制度を利用することで、共有者全員の同意を得なくても、農地を貸借することが可能になります。

この制度は2つのパターンがあるので、以下で詳しくご案内します。

3.制度の利用方法

所有者不明農地制度には、農地バンク法と農地法の2つのパターンがあります。

※農地バンク法:正式名称は、 農地中間管理事業の推進に関する法律。

3-1.農地バンク法を利用する場合

農地バンク法を利用できるのは、次の場合です。

  • 共有者の1人が管理している農地
  • 相続人が1人でも判明している農地

3-2.農地バンク法を利用する場合の手続きの流れ

手続きの流れは、以下の順番となります。

  1. 管理者(貸したい人)または相続人を知っている人(借りたい人)が、農地バンク、市町村または農業委員会に相談する。
  2. 農地バンクが、最長40年の促進計画案(貸借などの計画案)を作成し、農業委員会に不明の共有者探しを要請する。
  3. 農業委員会は、登記名義人あるいはその配偶者・子を探す。(それ以外は探しません)
  4. 登記名義人あるいはその配偶者・子の住所が判明した場合は、促進計画案への同意を得る。
  5. 共有持分2分の1以上を有する者が判明しない場合は、判明している共有者全員の同意を得て、促進計画案などを2か月間公示する。
  6. 公示期間中に異議がなければ、判明しなかった共有者の同意があったものとみなす。
  7. 農業委員会から農地バンクへ公示結果を通知する。
  8. 農地バンクが都道府県知事へ促進計画の認可を申請し、認可される。
  9. 農地バンクが農地を借り上げ、新たな担い手に貸し付ける。

※農地バンクから農地を借りる人は、賃料は農地バンクに支払います。そして、農地バンクから促進計画に定められた人(一般的には農地の管理者)に支払われます。受取った賃料は、共有者間で独自に分けることになります。

 

※借り手が亡くなった場合は、農地バンクが新たな借り手を探すので、共有者と農地バンクとの間の貸借権には影響はありません。

農地バンク法を利用する場合の手続きの流れ
農地バンク法を利用する場合の手続きの流れ

3-3.農地法を利用する場合

農地法を利用できるのは、次の場合です。

  1. 共有者が誰もわからない農地
  2. 相続人が1人も判明しない農地
  3. 相続人の全員が相続放棄をして相続財産清算人が選任されていない場合
  4. 共有者の中に貸付に反対者がいる場合

上記の4つの項目は、遊休農地か遊休農地のおそれのある農地であり、このときには農地法を利用することになります。

 

※上記4番目は、農地バンク法を利用した申出で農業委員会が共有者を探した際、共有者が耕作を行わないにもかかわらず促進計画案に反対した場合をいいます。

3-4.農地法を利用する場合の手続きの流れ

手続きの流れは、以下の順番です。

  1. 農業委員会は、登記名義人あるいはその配偶者・子を探す。(それ以外は探しません)
  2. 登記名義人あるいはその配偶者・子の住所が判明し合場合は、同意を得る。
  3. 所有者や共有持分2分の1以上を有する者が判明しない場合は、公示を行う。
  4. 公示期間中に異議がなければ、判明しなかった共有者の同意があったものとみなす。
  5. 農業委員会から農地バンクへ公示結果を通知する。
  6. 農地バンクが都道府県知事へ裁定(最長40年の貸借など)を申請し、裁定が下される。
  7. 農地バンクが農地を借り上げ、新たな担い手に貸し付ける。
農地法を利用する場合の手続きの流れ
農地法を利用する場合の手続きの流れ

4.まとめ

所有者不明農地制度についてご案内しました。

 

所有者不明農地制度は、所有者不明農地の有効活用を促進し、農業の規模拡大をのぞむ人にも、農地を貸したいという共有者にも役に立つ制度です。

農地の貸借を検討している方は、ぜひこの制度を活用することをご検討ください。

 

所有者不明農地制度の手続きでご相談がございましたら、ぜひ幣事務所にお問い合わせください。