2024.9.11更新
個人で農業をされている方が、規模拡大のために法人にしようと考えていらっしゃるかもしれません。
また、既存の会社が、新規事業として農業に参入する際に、新しく法人を立ち上げようと考えていらっしゃるかもしれません。
これらの皆様の参考となるように、ここでは、かつては農業生産法人と呼ばれ、現在は農地所有適格法人と呼ばれている法人についてご案内していきます。
農地所有適格法人とは農地法に規定されている法人ですが、その名の通り、主に農地を所有して農業をしている法人のことで、この法人でなければ、農地を所有することができません。
また、かつて農業生産法人と呼ばれていたものは、農地法が改正されたことにより、農地所有適格法人に呼び名が変わったものであり、両者はほぼ同じものです。
なお、農業法人と呼ばれるものもありますが、一般的に、農業法人とは農業をしている法人のことをそのように呼んでいるだけであり、法律の規定があるわけではありません。
よって、例えば、委託を受けて農作業のみをする法人は農業法人ですが、農地所有適格法人の要件を満たしていなければ、農地所有適格法人ではありません。
一方、農地を所有して農業をしている法人は、農地所有適格法人であり、当然、農業法人でもあります。
農地所有適格法人となるための要件には以下の4つがあります。
これらの要件は、法人設立時に満たすだけではなく、それ以降も継続して満たさないといけません。
≪農地法第2条第3項≫
”この法律で「農地所有適格法人」とは、農事組合法人、株式会社(公開会社(会社法(平成十七年法律第八十六号)第二条第五号に規定する公開会社をいう。)でないものに限る。以下同じ。)又は持分会社(同法第五百七十五条第一項に規定する持分会社をいう。以下同じ。)で、次に掲げる要件の全てを満たしているものをいう。”
農地所有適格法人は、次の3つの形態のうち、いずれかではなければいけません。
※有限会社を新規に設立することはできませんが、すべての株式の譲渡が制限されているので、農地所有適格法人になることができます。
農事組合法人、株式会社、合同会社について以下の表で比較しています。(合名会社、合資会社については省略しています。)
農事組合法人(2号法人) | 株式会社(非公開会社) | 合同会社 | |
根拠法 | 農業協同組合法 | 会社法 | 会社法 |
構成員 | 組合員3名以上 ※主に農家 | 株主1名以上 | 有限責任の社員1名以上 |
議決権 | 1人1票 | 原則、1株1票 | 原則、1人1票(定款で別の定め可能) |
役員 |
理事1人以上(理事は組合員の農家) 監事(任意) |
取締役1名以上(様々な機関設計が可能) | 原則、社員(出資者)=経営者 |
役員の任期 |
3年以内(定款で定める) |
10年以内(定款で定める) | 任期なし |
持分の譲渡 | 法人の承認が必要。 | 会社の承認が必要。 | 社員全員の承諾が必要(例外あり)(定款で別の定め可能) |
設立 |
定款の認証不要。 登録免許税 15万円以上。 設立の届出が必要。 |
定款の認証必要。 登録免許税 15万円以上。 |
定款の認証不要。 登録免許税 6万円以上。 |
事業内容 |
農業経営 ※農業の共同利用施設の設置(施設利用に関係する運搬・加工・貯蔵を含む)や農作業の共同化も可能 |
様々な事業が可能。 ※事業要件を満たす必要あり |
様々な事業が可能。 ※事業要件を満たす必要あり |
組織変更 |
株式会社への組織変更可能 |
持分会社への組織変更可能 |
株式会社への組織変更可能 |
≪農地法第2条第3項第1号≫
”一 その法人の主たる事業が農業(その行う農業に関連する事業であつて農畜産物を原料又は材料として使用する製造又は加工その他農林水産省令で定めるもの、農業と併せ行う林業及び農事組合法人にあつては農業と併せ行う農業協同組合法(昭和二十二年法律第百三十二号)第七十二条の十第一項第一号の事業を含む。以下この項において同じ。)であること。
直近3年の主な事業(売上高の過半を占める事業)が農業(関連事業を含む)でなければいけません。
なお、新規で農業に参入する場合は、営農計画書の内容によって判断されます。
関連事業とは、次のようなものなどを指します。
事業内容 | 例 | 説明 |
生産した農畜産物の貯蔵・運搬・販売 | ||
農産物生産に必要な資材の製造 | 肥料の製造販売、農具の製造販売など | 他の人への販売用ではなく、自らも使用するものである必要あり。 |
農作業の受託 | 他の人の農作業をするだけではなく、自らの農作業も行う必要あり。 | |
農業体験施設などの設置・運営や民宿業 | 観光農園、農家レストラン、直売所、農家民宿など |
農家レストラン:自らで生産した農畜産物を原料の一部に使用したメニューを提供する必要あり。 直売所:他の人が生産した農畜産物だけでなく、自らが生産した農畜産物も販売する必要あり。 |
営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)による売電 | ||
バイオマスによる熱の供給、売電 | 自らが生産した農畜産物やそれらを生産または加工した際に出てきたものを原料とする必要あり。 |
≪農地法第2条第3項第2号≫
”二 その法人が、株式会社にあつては次に掲げる者に該当する株主の有する議決権の合計が総株主の議決権の過半を、持分会社にあつては次に掲げる者に該当する社員の数が社員の総数の過半を占めているものであること。
イ その法人に農地若しくは採草放牧地について所有権若しくは使用収益権(地上権、永小作権、使用貸借による権利又は賃借権をいう。以下同じ。)を移転した個人(その法人の株主又は社員となる前にこれらの権利をその法人に移転した者のうち、その移転後農林水産省令で定める一定期間内に株主又は社員となり、引き続き株主又は社員となつている個人以外のものを除く。)又はその一般承継人(農林水産省令で定めるものに限る。)
ロ その法人に農地又は採草放牧地について使用収益権に基づく使用及び収益をさせている個人
ハ その法人に使用及び収益をさせるため農地又は採草放牧地について所有権の移転又は使用収益権の設定若しくは移転に関し第三条第一項の許可を申請している個人(当該申請に対する許可があり、近くその許可に係る農地又は採草放牧地についてその法人に所有権を移転し、又は使用収益権を設定し、若しくは移転することが確実と認められる個人を含む。)
ニ その法人に農地又は採草放牧地について使用貸借による権利又は賃借権に基づく使用及び収益をさせている農地中間管理機構(農地中間管理事業の推進に関する法律(平成二十五年法律第百一号)第二条第四項に規定する農地中間管理機構をいう。以下同じ。)に当該農地又は採草放牧地について使用貸借による権利又は賃借権を設定している個人
ホ その法人の行う農業に常時従事する者(前項各号に掲げる事由により一時的にその法人の行う農業に常時従事することができない者で当該事由がなくなれば常時従事することとなると農業委員会が認めたもの及び農林水産省令で定める一定期間内にその法人の行う農業に常時従事することとなることが確実と認められる者を含む。以下「常時従事者」という。)
ヘ その法人に農作業(農林水産省令で定めるものに限る。)の委託を行つている個人
ト その法人に農業経営基盤強化促進法(昭和五十五年法律第六十五号)第七条第三号に掲げる事業に係る現物出資を行つた農地中間管理機構
チ 地方公共団体、農業協同組合又は農業協同組合連合会 ”
株式会社であれば、本来、株式を譲渡して、株主の地位を自由に譲渡することができます。
株式会社であれば、総議決権のうち過半を以下の農業関係者が占めていなければいけません。
持分会社であれば、社員の総数のうち過半を以下の農業関係者が占めていなければいけません。
農業関係者 | 説明 |
農地の権利を提供した人 |
法人に農地を譲った人、貸した人で、6か月以内に法人の構成員(株主や社員)となって、現在も引き続きその地位にいる人。これから農地を譲る人、貸す人も含む。 ※農地を譲った人、貸した人の相続人であっても、相続から6か月以内に構成員となって、現在も引き続きその地位にいれば、含まれます。 |
法人の農業の常時従事者 | 原則、年間150日以上、農業に従事する必要あり。 |
法人への農作業委託者 | 基幹的な農作業を委託する人。基幹的な農作業とは、畑作であれば耕起・整地、播種、収穫、稲作であれば耕起・代かき、田植・稲刈り・脱穀。 |
農地バンクを通じて法人に農地を貸している人 | |
農地バンク、地方公共団体、農業協同組合、農業協同組合連合会 |
≪農地法第2条第3項第3号、第4号≫
”三 その法人の常時従事者たる構成員(農事組合法人にあつては組合員、株式会社にあつては株主、持分会社にあつては社員をいう。以下同じ。)が理事等(農事組合法人にあつては理事、株式会社にあつては取締役、持分会社にあつては業務を執行する社員をいう。次号において同じ。)の数の過半を占めていること。
四 その法人の理事等又は農林水産省令で定める使用人(いずれも常時従事者に限る。)のうち、一人以上の者がその法人の行う農業に必要な農作業に一年間に農林水産省令で定める日数以上従事すると認められるものであること。”
役員要件は、以下の2つです。
農地所有適格法人が農地を取得する際も、個人が農地を取得するときと同様に、農地法第3条の許可を得る必要があります。
ただし、農地を借りる場合は、農地法第3条の許可または農地バンクを利用した貸借、利用権設定(2025年3月31日まで)を利用することもできます。
※ 農地所有適格法人ではなく、一般法人であっても、農地を借りることができる場合があります。詳細は「一般法人による農地貸借」をご覧ください。
農地所有適格法人が農地を所有または借りているときは、毎事業年度の終了後3か月以内に、農業委員会へ報告書を提出する必要があります。
報告書を提出する理由は、当該の法人が農地所有適格法人の要件を満たしていることを、農業委員会が確認するためです。
よって、報告内容は、要件に関する内容となります。
この報告をしなかったり、うその報告をした場合は、30万円の過料に処せられるので、忘れずに行いましょう。
ここまで、農地所有適格法人の要件を中心にご案内しました。
農業の規模拡大のために農業法人を設立する方、新規参入するために農業法人の設立を考えていらっしゃる方はぜひ、参考としてください。