利用権設定による賃貸借(農業経営基盤強化促進法)

2023.12.1更新

 

農地を賃貸借する場合、農地法第3条に基づく賃貸借が原則ですが、実際には「利用権設定」という方法をとることが多いと思います。

 

利用権設定とは、農業経営基盤強化促進法(以下、基盤強化法と称します)に基づく農地の賃貸借のことです。

 

農地を農地法第3条の規定によって賃貸借した場合、農地の所有者さんは農地が戻ってこないのではないかという不安を抱くこととなり、一方で、規模拡大を希望する農業者にとっては、農地が集約しづらいという問題もありました。

 

⦅農地法では、①賃貸借期間の上限が50年(民法では20年)、②引き渡しを受けたことのみで第三者に主張できる、③更新の拒絶をするためには農地法上の許可が必要、④解約などするときにも農地法上の許可が必要、の4点があることで、農地の所有者は農地が戻ってこないのではないかという不安を抱いてしまいます。⦆

 

一方で、基盤強化法の目的は、「農業経営の改善を計画的に進めようとする農業者に対する農用地の利用の集積、これらの農業者の経営管理の合理化その他の農業経営基盤の強化を促進するための措置を総合的に講ずることにより、農業の健全な発展に寄与すること」となっています。

つまり、やる気のある農業者に農地を集約し、地方自治体はこれに協力しなければならないという趣旨です。

 

この法律に基づいて、農地に利用権設定をすれば、農地法の許可を必要とせずに市町村が計画した農用地利用集積計画に基づいて農地を賃貸借することが可能になります。

 

農地法第3条許可による農地の賃貸借と基盤強化法による農地への利用権設定の違いをみてみます。

 

基盤強化法による利用権設定の場合、対象となる農地は農業振興地域内の農用地に限られています。つまり、利用権設定は、農地法第3条許可に比べて簡単に農地を賃貸借する方法ですが、すべての農地に対して適用できるわけではありません

 

また、借り手側にも一定の要件があり、基準を満たしている農業者に限って利用権を設定します。

 

農地法第3条許可による賃貸借の場合、契約書に更新に関する特約がなければ、法定更新される規定があります。

しかしながら、利用権設定の場合、契約期間が満了すると自動的に利用権の効果が終了し、農地が貸し手の元に戻ってきます

農地法第3条許可との相違点

項目     

農地法第3条 利用権設定
対象農地 全ての農地 農業振興地域内の農用地
対象者

農地法第3条の許可要件を満たした者

市町村の基本構想に基づいた

農地利用集積計画の要件を満たした者

賃貸借期間満了後の措置

更新拒絶には、都道府県知事の許可が必要

期間満了と同時に賃貸借終了
以下に利用権設定の場合の貸し手・借り手双方のメリットを記載します。
貸し手のメリット

➀農地法の許可が不要。

②貸した農地は、期限が来れば離作料を支払うことなく返却される。(ただし、期限を過ぎても引き続き借り手が耕作を続け、貸し手も黙認していた場合は、通常の賃貸借をしたものと扱われ、農地法20条の許可がなければ終了させることができない。)

借り手のメリット

➀農地法の許可が不要。

②利用権の再設定により、継続して借りられる。

農地法第3条許可による賃借のイメージ

農地法第3条許可による移転

経営基盤強化促進法による賃借のイメージ

※農地法による許可が不要。法定更新されない。

経営基盤強化促進法による賃借

農地の貸し手とその農地の借り手が合意して、市町村などを加えた3者が農用地利用集積計画を策定し、農業委員会の承認を得ます。

承認の上で計画が公告されると、農地法第3条による許可なく利用権が設定され、借り手が営農できるようになります。

 

農用地利用計画の要件は以下です。

計画内容 市町村の基本構想に適合すること

農用地の

利用要件

すべての農地を効率的に耕作すること
農作業従事要件 すべての世帯員(法人の役員)が常時従事すること
常時従事しない者がいる場合 地域の農業者との適切な役割分担の下に農業経営を行うこと
法人である場合は、業務執行役員のうち1人以上の者が耕作の事業に常時従事すること

その他の

権利関係

利用権を設定する土地について権利関係者すべての同意を得ていること

(共有農地である場合は、持分の1/2を超える同意があること)