個人農家の承継(相続)

2023.12.4更新

 

ここでは、相続全般や相続税の納税猶予特例等について述べていきます。

 

※個別具体的な税務の相談、税務申告の依頼は税理士にお願い致します。

法定相続人と法定相続分

相続の割合は被相続人の遺言が優先されますが、遺言がない場合は以下の法定相続分のとおりになります。

順位 法定相続人 法定相続分
 第1順位 配偶者と子(直系尊属)  配偶者1/2 子1/2
 第2順位 配偶者と親(直系尊属)  配偶者2/3 親1/3
 第3順位 配偶者と兄弟姉妹  配偶者3/4 兄弟姉妹1/4

 

相続人となるはずの子・兄弟姉妹が亡くなった被相続人よりも早く死亡している場合は、被相続人の孫や甥・姪が相続人(代襲相続人)となります。

(孫や甥姪も死亡している場合は、孫の子・甥姪の子が代襲相続人となります。)

相続税の申告と納付

相続税の申告は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に、被相続人の住所地の税務署に対して行います。

 

納税額がなければ申告の必要はありませんが、配偶者の税額減額・小規模宅地等の特例を適用することで納税額がゼロになった場合や農地等の納税猶予の特例を受ける場合には申告が必要です。

 

相続税の納税は金銭で一度に行うことが原則です。

 

ただし、一度に納付することが困難な場合は、延納の制度があります。

 

延納の制度は、相続税額が10万円を超え、金銭で一度に納付することが困難である理由がある場合、その困難とする金額を限度として年賦延納ができる、というものです。

 

延納が認められた場合、利子税と納付の担保が必要になります。

 

延納でも納付が困難な場合には、その困難な金額を限度として、相続により取得した有価証券や不動産を相続税に充てることができる、物納申請というものがあります。

 

しかし、物納申請が認められる条件は非常に厳しいようです。

相続税計算の仕組み

相続税の総額、各人の納付税額については、こちらをご覧ください。

農地等の相続税納税猶予制度

農業を営んでいた(特定貸付けを含む)被相続人から相続や遺贈によって農地等を取得して、農業を営んでいく(特定貸付けを含む)場合には、一定の要件のもとに、取得した農地等の価額のうち農業投資価格による価額を超える部分に対応する相続税額が納税猶予されます。

 

農地等の贈与税納税猶予制度の適用を受けていた場合、贈与者に死亡によって贈与税は免除され、贈与を受けた農地等は贈与者から相続したものとみなされて相続税の課税対象とされますが、このときにも相続税納税猶予制度の適用を受けることができます。

 

ただし、相続時精算課税に係る贈与によって取得した農地等は、相続時納税猶予制度の適用を受けることができません。

 

相続税納税猶予制度の適用を受け、継続していくためには、その農地等で農業を続けていく必要があります。

 

相続税額の圧縮策として安易に考えて利用すると、のちに利子税もつけて多額の相続税を納税しなければならない事態に陥る可能性があるため、十分な検討が必要です。

納税猶予制度適用のための要件

(ア)被相続人の要件

  • 死亡の日まで農業を営んでいた人
  • 農地等の生前一括贈与をした人
  • 死亡の日まで相続税納税猶予の適用を受けていた農業相続人または農地等の生前一括贈与の適用を受けていた受贈者で、障害、疾病などの理由で農業が困難であるため、賃借権等の設定によって貸付けをし、税務署長に届出をした人
  • 死亡の日まで特定貸付けをしていた人

 

(イ)農業相続人の要件

  • 相続税の申告期限までに農業経営を開始し、その後も引き続き農業経営を行うと認められる人
  • 農地等の生前一括贈与の適用を受けた受贈者で、特例付加年金または経営移譲年金の支給を受けるため、その推定相続人に対し農地等について使用貸借による権利を設定して、農業経営を移譲し、税務署長に届出した人(贈与者が死亡した後も引き続き推定相続人が農業経営を行うときに限る)
  • 農地等の生前一括贈与の適用を受けた受贈者で、障害、疾病などの理由で農業が困難であるため賃借権等の設定による貸付けをし、税務署長に届出をした人(贈与者が死亡した後も引き続き賃借権等の設定による貸付けを行う者に限る)
  • 相続税の申告期限までに特定貸付けを行った人(農地等の生前一括贈与の適用を受けた受贈者である場合は、相続税の申告期限においても特定貸付けを行っている人)

 

(ウ)農地等の要件

  • 被相続人が農業に使用していた農地等で、相続税の申告期限までに遺産分割されたもの
  • 被相続人が特定貸付けを行っていた農地または採草放牧地で相続税の申告期限までに遺産分割されたもの
  • 被相続人が営農困難時貸付(※)を行っていた農地等で相続税の申告期限までに遺産分割されたもの
  • 被相続人から生前一括贈与により取得した農地等で被相続人の死亡時まで贈与税の納税猶予または納期限の延長の特例を受けていたもの
  • 相続や遺贈によって財産を取得した人が相続開始の年に被相続人から生前一括贈与を受けていたもの

(ウ)の要件が意味するところは、それぞれの相続人の間で争いになり、農業承継者が農地等を相続することが相続税の申告期限までに合意することができなかった場合は、適用できない、ということです。

争いになると、農業の継続にも大きな影響を及ぼすことになります。

 

※営農時困難貸付けとは、高度な精神障害、身体障害等のやむを得ない事情によって営農を継続することができない場合に、当該の農地等を貸し付けても納税猶予が打ち切られない制度です。

営農時困難貸付けをするときには、所定の手続きが必要です。

納税猶予制度利用の注意点

この制度を受けるためには、相続税の申告書に一定の書類を添付して期間内に提出します。

このとき、農地等納税猶予税額及び利子税の額に見合う担保を提供する必要があります。

 

また、この制度の適用を受けた人は、申告から3年ごとに引き続きこの制度を受ける旨及び特例農地等に係る農業経営に関する事項を記載した届出書(継続届出書)を提出する必要があります。

納税猶予が打ち切りとなる場合

以下の場合に該当すると、農地等納税猶予税額の全部または一部に利子税を加算して納税しなければなりません。

  1. 当該の農地等について、譲渡等があった場合(譲渡等とは、譲渡、贈与、転用、使用収益する権利の設定もしくはこれらの権利の消滅または耕作の放棄のことです。農用地利用集積計画に基づくもの等で一定の要件を満たすものは除きます。)
  2. 当該の農地等に係る農業経営を廃止した場合
  3. 継続届出書の提出がなかった場合
  4. 担保価値が減少したことなどにより、追加の担保または担保の変更を求められたときに応じなかった場合

上記1に関して、使用収益する権利には地上権が含まれていますが、区分地上権は含まれていません。

区分地上権を設定しても、当該の農地等を、納税猶予を受けている人が引き続き耕作をするときは、納税猶予が打ち切られることなく継続されます。

 

農地に区分地上権を設定できることによってソーラーシェアリングを行うことが可能になりました。

 

ただし、支柱部分は転用が必要なため、納税猶予の対象からは除外されます。

猶予されていた相続税が免除される場合

以下の場合に該当すると、農地等納税猶予税額は免除されます。

  • 制度の適用を受けた農業相続人が死亡した場合
  • 制度の適用を受けた農業相続人が当該の農地等の全部を後継者に対して生前一括贈与し、贈与税納税猶予制度を利用した場合(特定貸付けを行っていない相続人に限ります)
  • 制度の適用を受けた農業相続人が相続税の申告書の提出期限から農業を20年間継続した場合