個人農家の承継(贈与)

2018.5.17

 

農業経営を承継する後継者がすでに決まっている場合で、農業経営を継続できる見込みがある場合、生前贈与による承継も有効です。

 

農地を贈与することによる納税猶予制度や農業用動産の贈与の留保が適用できる場合があります。

 

さらに事業者に相当の農業所得があり、今後もそれが増加する見込みがある場合は、生前の経営移譲によって農業所得の帰属を農業承継者に移すことができます。

 

これによって、相続財産の圧縮効果や農業者年金が経営移譲年金として受給できる可能性があります。

 

ここでは、生前贈与の際の贈与税にかかわる事柄について述べていきます。 

 

※個別具体的な税務の相談、税務申告の依頼は税理士にお願い致します。

贈与にともなってかかる税金

贈与税とは

個人から無償で財産を取得した個人に課税されるのが贈与税です。

 

贈与税の課税方法には、「暦年課税」と「相続時精算課税」の2通りがあります。

また、贈与財産の評価については、財産評価基準書を用いて評価されます。

 

贈与財産に係る税率は相続税の場合と比較して高いですが、暦年課税によれば年間110万円までは基礎控除があり、計画的に資産移転をすることができます。

 

贈与税の計算については、こちらをご覧ください。

 

贈与税の申告は、受贈者が贈与を受けた年の翌年2月1日~3月15日に所官する税務署に対して行います。

また、納税は3月15日までに金融機関または税務署の窓口、インターネット(e-Tax)、コンビニで行います。

相続時精算課税制度

相続時精算課税に係る贈与者が亡くなった時に、相続時精算課税の適用を受けた贈与財産の価額と相続・遺贈により取得した財産の価額との合計金額を基に算出した相続税額から、既に収めた相続時精算課税に係る贈与税額を控除する、という制度です。  

 

この制度の適用対象者は、その年の1月1日時点に60歳以上の親や祖父母から財産の贈与を受けた推定相続人である20歳以上の子及び孫です。  

 

特別控除額は2,500万円で、相続時精算課税に係る贈与者からの累計贈与額が2,500万円までは課税されません。

2,500万円を超える部分については20%の贈与税が課されます。  

 

相続時精算課税を選択する受贈者は、最初の贈与を受けた年の翌年2月1日~3月15日に納税地の税務署長に対して、「相続時精算課税選択届出書」を受贈者の戸籍謄本等とともに申告書に添付して提出します。  

 

相続時精算課税を選択した贈与者からの贈与に対しては暦年課税の基礎控除額110万円を控除することができなくなるため、110万円以下であっても贈与税の申告が必要になります。

また、相続時精算課税を選択すると、その贈与者からの贈与に対して暦年課税に変更することはできなくなります。

不動産取得税

不動産取得税とは、不動産を贈与や売買で取得したときにかかる税金で、取得者に対して課税されます。

 

課税基準額は、固定資産税の評価額であり、さらに農地は特例として、税率は3%です。

また、取得した土地の評価額が10万円未満の場合には免除されます。

 

なお、次の場合には不動産取得税は課税されません。

  • 相続や法人の合併により不動産を取得した場合
  • 公共の用に供する道路や保安林・墓地を取得した場合
  • 学校法人、宗教法人が本来の事業のために使用する不動産を取得した場合

農地等の贈与税納税猶予制度

この制度は、農業を営んでいる人が、農地の全部または採草放牧地および準農地の3分の2以上の面積を、農業を承継する推定相続人の1人に贈与した場合、受贈者が農業経営を継続する限り、贈与税の納税が猶予されるものです。  

 

猶予を受けた贈与税額は、受贈者または贈与者が死亡した場合には納税が免除されます。

 

ただし、贈与者が死亡した場合は、特例の適用を受けて納税猶予の対象となっていた農地を、贈与者から相続したものとみなして相続税の課税対象となります。  

(この場合の相続税は、相続税納税猶予制度の適用を受けることができます。) 

 

贈与税の納税猶予制度を利用した場合は、相続時精算課税制度の利用はできなくなります。

 

逆に、過去に後継者である推定相続人に農地を贈与し、その受贈者が相続時精算課税制度の適用を受けていた場合は、農地等の贈与税猶予制度の適用を受けることができません。

納税猶予制度適用のための要件

贈与者としての要件は、原則、贈与の日まで3年以上継続して農業を営んでいた個人です。

 

ただし、下記(ア)の要件に該当する場合にはこの特例の適用を受けられません。

 

受贈者は下記(イ)の要件を満たす推定相続人です。贈与手続きは、下記の要件を確認してを進めることがとても重要です。  

 

(ア)贈与者が次の要件に該当すると、贈与税の納税猶予制度を受けられません。

  • 贈与をした年の前年以前に、推定相続人に対し、相続時精算課税制度を適用する農地等の贈与をしている場合
  • 贈与をした年に、今回の贈与以外に農地等の贈与をしている場合
  • 過去に、農地等の贈与税の納税猶予の特例に係る一括贈与をしている場合

 

 (イ)受贈者が次の要件すべてに該当することを農業委員会から認められると、贈与税の納税猶予制度を受けられます。

(農業委員会への適格証明書の発行申請を要します。)

  • 贈与を受けた日までに、18歳以上であること
  • 贈与を受けた日まで引き続き3年以上農業に従事していること
  • 贈与を受けるとすぐに、その農地等で農業経営を行えること
  • 認定農業者等であること

納税猶予制度利用のための注意点

贈与税の納税猶予制度を受けるためには、贈与税の申告書に一定の書類を添付して提出期間内に提出します。

このとき、農地等納税猶予額及び利子税の額に見合う担保を提供する必要があります。

 

また、この制度の適用を受けた人は、納税猶予が打ち切りになるまでの間または納税が免除されるまでの間、贈与税の申告から3年ごとに引き続きこの制度を受ける旨及び特例農地等に係る農業経営に関する事項を記載した届出書(継続届出書)を提出する必要があります。

納税猶予が打ち切りとなる場合

納税猶予を受けている贈与税額は、以下の場合に該当すると、税額の全部または一部に利子税を加算して納税しなければなりません。

  1. 贈与を受けた農地等について、譲渡等があった場合(譲渡等とは、譲渡、贈与、転用、使用収益する権利の設定またはこれらの権利の消滅、もしくは耕作の放棄のことです。ただし、特定貸付、営農困難時貸付(※)、買換特例は打ち切りの対象になりません。)
  2. 贈与を受けた農地等に係る農業経営を廃止した場合
  3. 受贈者が推定相続人に該当しないこととなった場合
  4. 継続届出書の提出がなかった場合
  5. 担保価値が減少したことなどにより、追加の担保または担保の変更を求められたときに応じなかった場合

※営農時困難貸付けとは、高度な精神障害、身体障害等のやむを得ない事情によって営農を継続することができない場合に、当該の農地等を貸し付けても納税猶予が打ち切られない制度です。

営農時困難貸付けをするときには、所定の手続きが必要です。

 

上記1に関して、使用収益する権利には地上権が含まれていますが、区分地上権は含まれていません。

 

区分地上権を設定しても、当該の農地等を、納税猶予を受けている人が引き続き耕作をするときは、納税猶予が打ち切られることなく継続されます。

 

農地に区分地上権を設定することでソーラーシェアリングを行うことが可能になりました。

 

ただし、支柱部分は転用が必要なため、納税猶予の対象からは除外されます。

贈与税の特定貸付の特例

「贈与税の納税猶予を受けている場合の特定貸付の特例」とは、贈与税の納税猶予を受けている農地等について、賃借権等の設定により下記の貸付けが行われたときは、農業経営を廃止していないものとして、引き続き贈与税の納税猶予が継続される特例です。

 

この特例を受けるためには、「特定貸付け」を行った日から2カ月以内に届出書と一定の添付書類を税務署に提出する必要があります。

  • 農地中間管理事業の推進に関する法律による農地中間管理事業のための貸付け
  • 農業経営基盤強化促進法による農地利用集積円滑化事業の一定の事業のための貸付け
  • 農業経営基盤強化促進法による農用地利用集積計画の定めによる貸付け

農地等の相続税・贈与税納税猶予特例の関係性

農地等の贈与を受けた場合の納税猶予特例は、その農地等を贈与した贈与者が死亡した時にその農地等を相続したものとみなされて相続税の対象となります。

 

この場合、贈与税の納税猶予を受けていた農業相続人が新たに相続税の納税猶予特例を適用することでその農地に係る相続税を猶予することができます。

 

このように、親から子へと2つの制度を連結させることで、その農地で農業を継続する限り、特例農地等に係る贈与税と相続税が免除されます。