2018.8.10更新
農地を所有することができる法人は原則、農地所有適格法人のみです。
農地所有適格法人に該当するのは、①農事組合法人(2号農事組合法人)、②株式会社(譲渡制限株式会社)、③持分会社です。
ここでは、この農事組合法人について紹介します。
農事組合法人は、農業生産の協業を図る法人です。
そのため、集落営農組織が法人化するときに選択されやすい法人形態です。
ここで、集落営農および集落営農組織について少し説明します。
集落営農とは、集落を単位として農業生産の一部または全部を共同・統一して行われる農業のことです。
一般的に、一定のまとまりのある土地利用や機械の共同利用などの農業生産だけではなく、農村生活での共同活動を含めて、地縁的な関係を基本とした集落を基盤に農業生産力を向上させ、兼業農家や高齢農家を含めて協力して行うものです。
つまり、単に共同で農作業を行うのではなく、ご近所付き合いを基にして多くの人を巻き込んで生産力の向上を図るものです。
そして集落営農組織とは、以下のいずれかのものを行う集落営農のことです。
集落営農組織が、経営主体としての実体を有し、将来効率的で安定的な農業経営に発展すると見込まれるときは(要件を満たすということ)、国より一定の支援を受けることができます。
話を農事組合法人に戻しますが、農事組合法人は以下のことができるのみです。
農業にかかる共同利用施設の設置(この施設を利用して組合員が生産した物資の運搬・加工・貯蔵を含む)または農作業の共同化
農業の経営(行っている農業に関連して、農畜産物を原料とした製造・加工、または農作業の受託、林業の経営を含む)
1および2に付帯することがら
この1.のみを行うものを1号農事組合法人と呼びます。
それ以外を2号農事組合法人と呼びます。
2号農事組合法人の設立手続きの流れは次のようになります。
発起人による設立に関しての事前協議
(事業目的、業務内容などを共有します。発起人は3名以上が必要です。)
発起人会の開催
(役員候補者の選定などを行います。)
事業計画書などの作成
定款の作成
(公証人による定款認証は不要です。)
設立総会
出資の払い込み
法人設立登記
関係官庁に届出
(設立後2週間以内に、都道府県知事または農水大臣に届け出なければなりません。届出先によって、提出書類(登記事項証明書、定款、事業計画書、設立総会議事録など)は異なります。)
2号農事組合法人の定款に定めなければならない事項は以下です。
また、規定があれば定款に記載しなければならない事項は以下です。
農事組合法人は、「農事組合法人」という文字を必ず入れなければなりません。
(反対に、農事組合法人でない法人は「農事組合法人」という文字を入れることができません。)
地区の範囲は、農事組合法人では必ず定款に入れないといけない事項です。
組合員(株式会社でいう株主のようなものです)の住所がある市町村区またはそれより下位の区画(大字や字など)を列記します。
事務所の所在地は、最小の行政区画まで記載すればよく、地番は必要ありません。
(「○○県○○郡○○村」 までで良いということです。)
事務所の掲示板に掲示する方法を、公告の方法としなければなりません。
その他に、株式会社と同様の公告の方法(官報、日刊新聞、電子公告)をつけ加えることもできます。
株式会社の定款の「目的」にあたる部分です。
この項目が最も注意が必要です。
株式会社であれば、農業以外の事業を入れることができます。
(農地所有適格法人(旧農業生産法人)の株式会社であれば、総売り上げの2分の1未満であれば農業以外の事業を入れることができます。)
一方、農事組合法人の場合は、農業以外の事業を入れることができません。
それは、農事組合法人は農業生産について協業することで、組合員の共同の利益を増進することが目的だからです。
6次産業化で他業種に進出することを考えている場合は、別法人の設立や株式会社への組織変更、または初めから株式会社での設立を念頭に置いておいてください。
さらに、株式会社の場合には、実際には行う予定がなくても可能性がある事業を入れておくことができますが、農事組合法人の場合はそれができないことに注意が必要です。
組合員になれる者は下記です。
株式会社の場合は、設立時に全額出資することになります。
しかし、農事組合法人の場合は、分割での払い込みが認められています。
また、現物出資での払い込みも認められています。
代表理事という役職を置くことは可能ですが、法律に基づいた役職ではないため、法的には理事全員に代表権が与えられます。
(理事とは株式会社でいう取締役のようなものです。)
役員の任期は3年以内です。
理事は必ず置かなければなりませんが、監事は置かないということもできます。
(監事は株式会社でいう監査役のようなものです。)
農事組合法人の議決権は、出資割合に関わらず、1人1個です。
毎事業年度の剰余金の10分の1以上の金額を、利益準備金として積み立てなければなりません。
さらに、利益分準備金の額は、出資総額の2分の1を下回ってはいけない、となっています。
剰余金の配当は、3つのパターンがあります。
利用分量配当(事業の利用分量に応じて支払う)
従事分量配当(組合員が事業に従事した程度に応じて支払う)
出資配当(出資割合に応じて支払う)
利用分量配当のみ、従事分量配当のみ、さらに上記3つのパターンの組み合わせをとることができます。
(出資配当のみのパターンはとることができません。)
定款の記載例はこちらをご覧ください。
発起人は3人以上とされています。
また、組合員が3人未満となったときで、引き続き6か月間3人以上にならなかった場合、6か月経過後に法定解散となります。
2号農事組合法人の場合、常時従事者のうち、組合員とその世帯員以外の者の数は、常時従事者の3分の2を超えてはいけません。
つまり、12人の常時従事者がいたとして、組合員とその世帯員は4人以上でなければなりません。
(組合員とその世帯員以外の者は最大でも8人しかおいてはいけないということです。)
農事組合法人を設立したときは、設立から2週間以内に行政庁(都道府県または農林水産大臣)に届出なければなりません。
また、株式会社の設立のときのように公証人による定款の認証は必要ありません。