2024.9.20
現在、農地を賃貸借する方法は、利用権設定が主流になっています。(2025年4月からは農地バンクを通した賃貸借に完全に移行します。)
しかし、利用権設定が主流である前は、農地法第3条による賃貸借がよく行われており、「農地は貸したら簡単には返ってこない」、と言われていました。
利用権設定や農地バンクを通した賃貸借では、賃貸借の期限が来れば自動的に土地所有者に農地が戻ってきます。
また、期間の途中でも、貸主と借主の双方の合意によって、農地が返還されます。
ですが、農地法第3条による賃貸借では、農地の返還については、通常、役所の許可が必要です。
ここでは、農地法第3条の許可を得て賃貸借した農地の返還についてご案内します。
≪農地法第18条柱書≫
”農地又は採草放牧地の賃貸借の当事者は、政令で定めるところにより都道府県知事の許可を受けなければ、賃貸借の解除をし、解約の申入れをし、合意による解約をし、又は賃貸借の更新をしない旨の通知をしてはならない。”
農地の賃貸借契約の当事者(貸主と借主)は、都道府県の許可(※)がなければ、契約の解除、解約の申入れ、合意による解約、契約更新しない旨の通知をすることができません。
たとえ、そのようなことをしたとしても、その効力はありません。
※都道府県の権限を市町村に移している場合があります。
通常の土地の賃貸借であれば、契約を終わらせる際に、役所の許可は必要ありません。
しかし、農地の場合だけ必要なのは、なぜでしょうか。
農地法では、耕作者の地位を安定させることで、農業生産が増大し、食料が安定的に供給されることを目指しています。
よって、耕作者が安心して耕作できるように、その立場を保護しているのです。
そのため、賃貸借契約を終わらせるためには、都道府県などの許可が必要という規制を設けています。
なお、使用貸借(無償での貸借)の場合は、契約を終了させるときの許可は不要ですが、届出をする必要があります。
契約の解除、解約の申入れ、合意による解約、契約更新しない旨の通知をするときはあらかじめ許可が必要です。
農地の賃貸借契約の解除・解約の方法について詳しくご案内します。
債務不履行による解除は、「契約の解除」に該当します。
借主の賃料不払いを例にすると、まず貸主が妥当な期間を定めて、その期間内に賃料を支払うようにと、借主に連絡します。(催告)
それでも、支払いがないときに、債務不履行によって解除することができます。
期間が定まっていない賃貸借契約(※)や、双方に解約できる権利がある賃貸借契約であるとき、一方的に、相手に対して契約打ち切りの通告をすることです。
許可を得てから、解約の申入れをすると、そのときから1年を経過することによって終了します。
しかし、借主が来シーズンの耕作に取り掛かる前に、解約の申入れをする必要があります。
※当初は期間が定まっていた契約であっても、期限が来て、自動的に更新された契約は、期間が定まっていない契約になります。
貸主と借主が合意の上で、賃貸借契約を終了させることです。
合意による解約の場合、次の条件を満たしていれば許可は不要です。
期間の定まっている賃貸借契約において、相手に対して、期限が来たら契約を終了させる旨の連絡をすることです。
期限が来る1年前から、6か月前までに行う必要があります。(農地法第17条)
賃貸借契約の解除・解約を次の表にまとめました。
契約の解除 | 解約の申入れ | 合意による解約 | 契約更新しない旨の通知 | |
期間の定まっている契約 | できる | ※ | できる | できる |
期間の定まっていない契約 | できる | できる | できる |
※双方に解約できる権利があるときは、契約を終わらせることができます。
以下のいずれかの場合でなければ、許可されません。
次のような場合が信義に反した行為です。
信義に反した行為については、例えば、5年間賃料を滞納してるにも関わらず貸主からの話し合いに応じなかった場合や、15年耕作放棄していた場合などが該当します。
具体的な転用計画があって、転用許可が見込まれ、借主の農業経営や生計の状況、離作条件(離作料などのこと)から考えて、契約を終了させることが適当といえる事情があるかどうかによって判断されます。
農地の返還をすることによって、借主の生活水準が悪化しないことや、貸主が自ら耕作することにより農業生産力を増大させるために必要な人員・技術・施設設備などを確保しているかを総合的に判断されます。
借主が耕作をしていないことから、農地バンクと協議を行うように、勧告があった場合です。
次のいずれかの場合が該当します。
例えば、借主が当該農地を効率的に耕作していないけれども、上記3‐1.借主が信義に反した行為をした場合ほどには当てはまらない場合などに、該当する可能性があります。
賃貸借契約を終了させようとする前に、事前(3か月前まで)に農業委員会を経由して、都道府県などに許可申請書を提出してする必要があります。
事後に許可申請書を提出するわけではありませんので、注意してください。
貸主が許可申請書を提出して行います。
※合意解約の場合は、貸主と借主が申請書に署名します。
賃貸借契約を終了させるとき、賃借権の消滅への対価や農業経営上の補償などの意味合いで、貸主から借主に離作料を支払うことがあります。
しかし、離作料の支払いは、法律の規定ではなく(※)、地域の習わしによるものであるので、金額については当事者の話し合いで決めることになります。
ですが、最近では、離作料を支払うというケースは少なくなってきていることから、どうしても必要なものというわけではありません。
※ただし、上記3‐2.農地転用することが適当な場合などの許可条件として、離作料の支払いを命じられることがあります。離作料の支払いを命じられないように、許可不要の下記6-2.合意による解約によって契約を終了させる方が良いです。
賃貸借契約を終了させるには許可が必要ですが、以下のとおり、許可がなくてもできる場合があります。
ただし、この場合には、契約を終了させた後、30日以内に届出をする必要があります。
解約の申入れ、合意による解約、契約更新しない旨の通知が、信託事業に関する信託財産について行われるときは許可が不要です。
合意による解約であっても、次の条件を満たしていれば許可は不要です。
その他に、農事調停によって行われる場合も許可は不要です。
契約を更新しない旨の通知であっても、次のいずれかの場合には許可が不要です。
※10年以上の期間の定めがあっても、解約できる権利が双方にある契約や、期間の満了前にその期間を変更して、そのときからの期間が10年未満である契約は除外されます。
解除条件付きの賃貸借契約(農地法第3条第3項の賃貸借)をして、借主が当該農地を適正に利用していないときに、あらかじめ農業委員会に届出をして解除をするときは、許可が不要です。
農地バンクが農地中間管理事業などによって農地を賃借または賃貸していて、都道府県の承認によって解除するときは、許可が不要です。
貸していた農地の返還についてご案内しました。
農地の返還についてはトラブルに発展する場合があります。
農地の返還で許可が必要なのは農地法による賃貸借の場合なので、農地法による賃貸借が必要なのかよく検討してください。
なお、農地バンクを通した賃貸借であれば、期限が来れば、自動的に農地は返還されます。
また、賃貸借契約を終了させる際には、できるだけ許可不要の合意解約をすることをおすすめします。
農地の返還で困ったことがあれば、遠慮なさらずお問い合わせください。