質問: 農業をやってみたいと思うが、つてがないのでどうすればいいのか?

2020.9.30

 

【質問】

農業をやってみたいと思うのですが、つてがないのでわかりません。どうすればいいですか?

 

先祖代々農地を受け継いできたけど、今は農業をやっていないから、農地が負担になっているという方は多くいらっしゃいます。

 

しかし、農業をやってみたいという人も確実にいらっしゃいます。

 

今回は、この質問に回答することで、つてがない人の農業の始め方について、簡単に回答いたします。

回答

ここでの「つて」とは、農業をするための土地を探すつて、農業をするための機械を買うつて、農業をするための技術を磨くつて、の3つの「つて」がないということだと思います。

 

これらの「つて」についてお話しする前に大事なことがあります。

それは、なぜ農業をはじめたいのかを、じっくり考えることです。

 

「安心・安全な食べ物をつくりたい」、「自然の中で暮らしたい」、「お金儲けがしたい」など、いろいろあると思います。

 

農業をはじめる理由によって、目指す農業の形も変わってきます。

 

例えば、安心・安全な食べ物を作りたいという理由であれば、無農薬栽培・減農薬栽培を目指したり、自然の中で暮らしたいという理由であれば、中山間地域での農業でも良かったり、お金儲けがしたかったら、高単価の作物を大規模に栽培する農業を目指すなど、様々な農業の形があります。

 

さらに、してみたい「くらし」も考えると良いです。

 

例えば、「お金儲けをしたい」という理由で農業をはじめようと思っても、仕事以外の時間も確保したいという場合には、従業員を雇ったり、最新の機械を導入するということも検討する必要性があるからです。

 

もちろん、目指す農業の実現と「くらし」の実現のどちらを優先するのかということも考えることになります。

 

目指す農業が明確になり、どのような「くらし」をしてみたいのかがはっきりしたら、それらを盛り込んだ書面を作っていきましょう。

この書面を「営農計画書」と言いますが、後々、土地を探したり、お金を確保するときに役立ちます。

 

面倒くさいですが、きっと後で作ってよかったと思うようになります。

営農計画書

営農計画には、次のことを盛り込むと良いと思います。  

  1. 自分のプロフィール
  2. 一緒に農業をする人について
  3. 作付計画
  4. 導入機械・設備
  5. 収支計画

 

1.自分のプロフィール・目指す農業

自分の基本的な情報だけでなく、農業をする上でアピールできることも書いておくのが良いです。

 

ただし、第三者からみて、納得できそうなことをアピールするようにしてください。

 

さらに、農業経験や自分が目指す農業についても書いておいてください。

 

 

2.一緒に農業をする人について

結婚されていて奥様・旦那様も手伝ってくれるという場合や、自分一人だけではなく友人と一緒にやるというときに書いてください。

 

また、自分は農業経験が乏しいのだけれど、農業の相談相手だったり、技術指導してくれる人がいるのであれば、その人のことを書くなど、自分に足りないものを持っている人のことを書くのが良いと思います。

 

 

3.作付計画

栽培予定作物とその栽培スケジュールや予想収穫量、予想作業時間を書きます。

 

もう農地が見つかっている場合は、その農地に当てはめて計画を立てますが、まだ見つかっていない場合は自分が目指す農業にあっている面積・場所などを想定して書いてください。

 

栽培スケジュール、予想収穫量、予想作業時間は近所の農家さんや研修先の農家さんに聞いたり、それができなければ統計や専門書を調べるなどして書いてください。

 

作付計画を作ると、時期ごとの作業時間農地の効率的な使い方などが明確になります。

 

 

4.導入機械・設備

目指す農業やしてみたい「くらし」がはっきりしてれば、どのような機械や設備が必要なのか大体わかるので、書くことができます。

 

必要な機械や設備がわからない場合は、近所の農家さんや研修先の農家さんに教えてもらったり、インターネットや専門書で調べてください。

 

さらには、どのくらいの費用がかかるのかや、中古でいいのか、それとも新品にするのかを検討してみてください。

 

ただし、新規就農者であれば、初期費用をなるべく抑えるようにするのが良いと思います。

 

 

5.収支計画

お金を借りる場合には、どのようにお金を返すのかを説明することが必要になるので、収支計画は重要です。

 

お金を借りない場合でも、初期費用としてどれくらいお金が必要なのか把握することにも役立ちます。

 

作付計画でどのくらい収穫が見込めるのかがわかるので、あとは販売先を検討することで、どのくらいの収益が見込めるのかが分かります。

 

ただし、販売単価を調べることはとても難しいので、卸売市場の平均価格を参考にすると良いと思います。

 

また、導入機械・設備を検討したのでそれらの費用がわかっていると思いますが、それ以外の経費(例えば種苗費・肥料費・農薬費・資材費・光熱費など)を調べることも必要です。

 

自分が目指している農業を実践している農家さんに、経費について伺えれば良いのですが、なかなか難しいので、統計の数字を参考にしてみると良いと思います。

 

また、作付計画から作業時間がわかるので、人件費を計算することができます。

 

営農計画は、こうなったらいいなという数字を書くところではないので、できる限り本物の数字を目指して作ってください。

 

本物の数字を目指すために、できれば農家の方に話を聞くことができるように努力してみてください。

農地について

営農計画がとりあえず出来上がったところで、農地や機械・設備、技術の話をしますが、まずは農地です。

 

農業はどんな土地で始めても構いません。

 

登記簿を見て、地目のところに田や畑などが書いてあれば最適ですが、雑種地や宅地、山林、原野ではじめても構いません。

 

ただし、宅地は値段が高く、山林や原野では木ややぶを切り開かなければならなかったり、雑種地では水が手に入らないなど、不便なことがあると思うので、やはり田や畑で始めるのが良いと思います。

 

しかし、なかなか農地は見つかりません。

 

不動産屋さんで農地を扱っているところはほとんどないと思っていただいた方が良いと思います。

 

農地を探すためには次の所に相談に行かれるのが良いと思います。

一.近隣の方からの紹介

研修先の農家、見学先の農家などから農地の情報をいただく方法です。

 

農家さんは雑草が生い茂ったりして農地が荒れるのが最も嫌がります。

ですから、農地を荒らさないことを、紹介をお願いする農家さんにきちんと説明すること、そして信頼してもらえるような振る舞いを常に心がけることが重要です。

 

二.役所に相談する

すべての市町村で農地を紹介してくれるわけではありませんが、相談してみる価値はあると思います。

 

その際、営農計画で自分がどのような農地を探しているのかを明確に説明することができると思います。

そうすれば、市町村の担当者の印象も良くなると思います。

 

三.農地バンクに登録する

新規就農者でも農地バンク(農地中間管理機構)から農地を紹介してもらうことができます。

 

この際にも、営農計画で自分の目指す農業を説明することができれば、印象は良くなると思います。

 

四.不動産屋さんで探す

前にも述べましたが、農地を扱っている不動産屋さんはとても少ないです。

 

ただし、全くないわけではありません。

 

農地を扱っている不動産屋さんを探すのは大変ですが、トライしてみても良いと思います。

 

五.競売・公売物件から探す

競売・公売物件はインターネットで情報が公開されています。

 

ただし、競売・公売に参加するためには、市町村が発行する「農地適格証明書」というものが必要です。

これは新規就農の行政手続きとほぼ同様の手続きです。

 

市町村に事前相談する際には、営農計画が役立ちます。

 

その他に、競売・公売にかけられている農地には、現在賃借人がいるかもしれません。

その解約などの交渉は物件を落札した人が行うため、リスクが潜んでいる可能性があるので、下調べがとても重要です。

機械・設備

機械・設備は様々ですが、例えばトラクターや管理機、草刈り機、パイプハウス、作業場などがあげられます。

 

メーカーのカタログをインターネットで探すことは簡単なので、購入することはすぐにできると思います。

 

ただし、新規就農する方はなるべく初期費用を抑えた方が良いので、中古品を購入した方が良いと思います。

 

研修先や見学先の農家さんに相談してみると、安く譲ってくれるかもしれません。

また、インターネットで中古の農機具を販売しているところもあります。

技術

農家になるには、栽培を予定している作物を育てられなければなりません。

 

ここでの「育てる」とはプランターや家庭菜園程度ではなく、ある程度の広さの農地で栽培した経験がある、ということです。経験があるということは、一応栽培技術があるということになります。

 

栽培技術を得るためには次の方法があります。

 

一.農家で研修生として働く

農家さんが研修生を募集していることがあります。

 

研修生といっても賃金を農家さんからもうわけですから、きちんと働かなくてはいけません。

 

日々の労働を通して、農業の情報を得たり、技術を蓄えることができます。

 

だたし、その農家さんが栽培している作物の情報や技術に限られると思います。

 

都道府県の就農相談セミナーやインターネットでも研修生を募集している農家さんの情報を得ることができます。

 

研修期間は2年というところが多いです。

 

二.教育機関で教わる

農業大学校や県や市の研修、また民間の研修などがあります。

 

研修期間は様々で、自分でコースを選ぶことができ、農業全般の情報や技術を得ることができます。

 

三.栽培キットを購入する

販売しているキットを購入して、説明書通りに作業すれば特定の作物が栽培できるというものがあります。

 

わからないところは販売元に問い合わをすれば回答してもらえるというものです。

 

これは主に、ビニルハウスをはじめとした施設内で栽培するものです。

よって、初期費用は少し高額になります。

 

キットで栽培する作物以外の作物や他の栽培方法については素人なので、他の農業はすぐにはできないということが想像できます。

 

四.独学

雑種地や宅地で農業、または山林・原野を切り開いて農業をするなど、自分で作物を栽培しながら技術を身に付ける。

 

つまり独学で農業を行うという方法もあります。

 

この方法では間違った方法を身に付けないように、近くにアドバイスをしてくれる農家さんがいてくれた方が技術が身につくのが早いと思います。

資金

質問者への回答になってはいませんが、農地や機械・設備、技術のほかに、資金の問題は大きいと思います。

 

資金を得る方法はいくつかありますが、次のものを紹介します。

 

1.青年等就農資金

日本政策金融公庫からの融資で、機械設備や果樹・家畜の購入、資材費などにあてることができます。

 

最大3700万円で、17年以内の返済(据置期間5年)、無利子です。

 

ただし、青年等就農計画というものを作り、市町村から認定を受ける必要があります。

 

認定を受けると、認定新規就農者となります。

 

でも営農計画をきちんと作ることができたのであれば、青年等就農計画は大部分ができたようなものです。

(青年等就農資金を受けるためには要件を満たし、さらに審査に通過する必要があります。)

 

青年等就農資金の詳細はコチラ→ https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/seinen.html

 

2.農業次世代人材投資資金(経営開始型)

経営が安定するまで最長5年間、年間最大150万円を市町村から交付してもらえます。

 

ただし、認定新規就農者となり、いくつかの要件を満たすことが必要です。

 

農業次世代人材投資資金(経営開始型)の詳細はコチラ→https://www.maff.go.jp/j/new_farmer/n_syunou/roudou.html

まとめ

  • 「つて」がなくても農業を始めることはできます。
  • 農業以外の仕事でもそうですが、農業とはどういうものなのかを少しでも体験したり、経験者に話を聞いて想像を膨らませてください。その上で、営農計画(他の仕事でいう事業計画)を作ってください。
  • 営農計画があれば、農地を探すときや技術を習得するとき、資金を集めるときに大いに役立ちます。